離婚・男女問題に取り組む弁護士の水谷真実(→プロフィールはこちら)です。
具体的な場面
子どもが亡くなった夫の実の子どもではありません。子どもの本当の父親は別におります。亡くなった夫の戸籍にはいったままですので、子どもの戸籍をはずしたいです。
外国籍の女性が日本人の男性(夫)と結婚しました。そして、婚姻中に子どもが生まれました。子どもは夫の戸籍にはいっており日本国籍です。ただ、その子どもは夫との間の子どもではなく、実の父親は別の男性です。
その後、夫が亡くなりました。そこで、子どもを実の父親の籍にいれさせたいです。
この場合、婚姻中に生まれた子どもは夫の子どもと推定されます(民法)。
子どもは夫の戸籍にはいります。
そこで、夫の間の子という推定を覆すためには、子どもと夫の間の親子関係不存在確認の調停の申し立てをまず裁判所にすることになります。
親子関係不存在確認が認められた後に、実の父親に対して強制認知や任意認知を求めることになります。
ただ、夫がすでに死亡している場合は、家庭裁判所での調停をする必要はありません。
調停はせずに、いきなり訴訟をすることになります。
夫が死亡しているので、検察官が被告として対応してきます。
裁判をする場合の注意点
裁判前の準備がとても大事
大事なことは、最高裁判所平成26年7月1日第一小法廷判決(民集68巻6号547頁)の判旨が踏まえられているかです。
(判例百選に掲載されています)
親子関係不存在確認の訴えが認められる要件についてですが、
・外観説(現在の判例)
・血縁説(実質説)
・家庭破綻説
などがあります。
そして、上記の平成26年の判例は、外観説に基づいています。
民法772条2項所定の期問内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である。
最高裁判所平成26年7月1 7日第一小法廷判決・民集68巻6号547頁参照
すなわち、夫の失踪、在監、外国滞在、夫婦の事実上の離婚など父子関係があることがあり得ないことが外観上明白な場合のみに限定して、親子関係の不存在を認める内容です。
そこで、訴訟提起をする前に、この判例(外観説)があることを知ること、そして、判例(外観説)の要件を立証するだけの証拠があるかをしっかりと検討しなくてはなりません。
弁護士の活用のしどころ
最初から弁護士に相談・依頼をした方がよいでしょう。
判例の知識や理解が問われるところです。
また、主張立証も、判例の理解を通じて行わなくてはなりません。
デリケートな対応が必要となります。
裁判で主張立証する内容
裁判では、母の妊娠当時、夫と別居していることを主張立証することが必要です。
また、妊娠の前後において、夫との性行為が全く無かったことの主張立証も必要です。
そして、子どもが生まれた後も夫とは別居が継続するしていることも主張立証が必要でしょう。
子どもの妊娠が何年も前だと、証拠をどうするかが悩ましいところです。
当時を知る人がいれば、その人に陳述書などをかいてもらうと良いでしょう。
裁判後
母親が日本人の場合
親子関係不存在確認の訴えが裁判で認められると、子どもは生まれた当初から夫の子どもではなくなります。子どもは母親の戸籍にはいります。
母親が外国人の場合
母親が外国人の場合、母親は日本国の戸籍にははいっておりません。
親子関係不存在確認の訴えが裁判で認められ、子どもが生まれた当初から夫の子どもではなくなると、子どもは母親と同じ国の国籍となります。
そこで、日本国籍への変更の準備が必要です。
その後は、できるだけ早く本当の父親から任意認知をしてもらったり、状況によっては強制認知の訴えをする必要があります。
そこで、認知の場合を想定して、事前に本当の父親との間でDNA鑑定をしておく等の準備も必要でしょう。
また、本当の父親の理解を得ておく必要があります。
最後に
判例のたつ外観説によると、子どもが生まれてから時間がたつほど、主張立証が難しくなってきます。
そこで、本当の父と子の間に血縁関係が認められたら親子関係不存在確認の訴えを認める血縁説がいいのではとも思われます。
しかし、子どもが生まれてから時間がたてばたつほど、本当の父親は自分の家庭や親族関係を築き上げていきます。
そこで、外観説は、本当の父親などにも配慮している立場なのかなとも思いました。