損害賠償命令の申立て

弁護士の水谷真実(→プロフィールはこちら)です。

損害賠償命令申立てという制度があります。
被害者・被告人と示談ができなかった場合に、損害賠償命令申立てを行うことが考えられます。

次の被害をうけた場合に、申立てをすることができます。

  • 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪(殺人罪傷害罪その未遂罪など)
  • 強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等
  • 逮捕及び監禁の罪
  • 未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等

です。
上記の犯罪について、法律には、次の様に規定されております。
なお、弁論の終結までに申し立てる必要があります。

(損害賠償命令の申立て)
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第23条 

 次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等)の罪
ロ 刑法第二百二十条(逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条から第二百二十七条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)

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注意点!~弁論の終結がいつか意識する~

損害賠償命令の申立ては、弁論の終結、すなわち、裁判が結審するまでに行う必要があります。

そのため、裁判の結審がいつか、しっかりと意識しておく必要があります。

最初の期日で弁論の終結となることがある

検察官から最初の裁判の期日を知らせる通知書が届きます。
そのため、最初の裁判の期日は分かります。

しかし、通知書の記載が曖昧です。
また、損害賠償命令申立てについては、なにも記載されておりません。
被害者にとって、不親切な書きぶりです。
(令和3年2月11日現在)

そして、通知書には次のように記載されていることがあります。
「なお、以後の公判期日及び判決言渡期日は、今後裁判所より指定され、当職からは通知しません。これらの期日をお知りになりたい場合は、あらためて当職まで照会してください。」

そのため、公判期日が続いてしまうのではないか、最初の期日で弁論の終結までならないのではないか、と勘違いしてしまうことがあります。

検察官の中には、弁論の終結(結審)がいつかまでは積極的には伝えてこない人もおります。

被告人が起訴状の事実を認めていれば、最初の期日で弁論の終結(結審)となることがあります。

そこで、自分から公判の担当検察官に積極的に電話をして確認をしましょう。
第1回の期日で、弁論の終結(結審)するか、確認をしましょう。

証人として呼ばれると思わされた

被害者の方が、捜査機関から、裁判で証人として呼ぶこともあるので、その際にはお願いしますと伝えられることがあります。

捜査段階で被疑者が否認をしていると、被害者の方が裁判で証人として呼ばれることがあります。

また、最初の公判日を伝える通知書にも、
「本通知書は、公判傍聴の機会を提供するものであり、公判期日に出頭することを要請するものではありません。証人等として公判期日への出頭をお願いする場合は、別途ご連絡いたします。」
と記載されていることがあります。

そのため、検察官から証人として裁判にでる旨の連絡があるだろうと思わされてしまいます。

一方、捜査段階では否認をしていたけれども、その後、被告人となった後に態度を変えることもあります。
起訴された後に、被告人が起訴状の事実を認めようとする場合もあります。
被害者の方の供述が記載された証拠も認めるのならば、証人尋問までは必要なくなります。

にもかかわらず、検察官の中には、証人として尋問することはなくなったことを連絡をしてこない人もおります。

申立書の作成について

申立書に記載する内容は、法律に次のとおりに規定されております。

(損害賠償命令の申立て)
1 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第2                          
3条2項
2 損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3 前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。

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申立書ですが、準備にもよりますが、準備がまだできていないのならば、2頁ぐらいのあっさりとした申立書になります。

損害の項目としては、性犯罪の場合ですと、
・慰謝料
・治療費
・交通費
・引っ越し代
などとなります。

損害は刑事事件の起訴状記載の内容に限られる
損害については、刑事事件の起訴状に記載の内容と関連する損害に限られます。
性犯罪の場合は、性犯罪と関連する損害に限られます。例えば、性犯罪と関係なく、被告人から物を盗まれてうけた損害は含まないです。

住所を秘匿したい場合

申立書には、住所が記載することになります。

しかし、弁護士を代理人とする場合は、申立書の住所を弁護士の事務所としたりできます。

また、委任状にも、住所を代理人弁護士の事務所の住所とすることができます。

申立ての費用

印紙代が、2000円です。
切手代は、4000円ほどです。
(令和3年2月現在)

損害賠償命令の手続の流れ

損害賠償命令の申立て

申立書を裁判所に提出します。
提出すると、被告人にも送達されます。

刑事裁判記録の閲覧・謄写について
裁判の準備のために、刑事裁判記録の閲覧・謄写ができます。
閲覧・謄写の委任状が別途必要です。
閲覧・謄写は、被告人側の弁護人の意見も踏まえて、裁判所から決められます。

準備~担当検察官や担当警察官と話す~
警察を通じて、相手(被告人)に求めたいことがあるか考えましょう。
例えば、性犯罪だったら、相手のスマートフォン内にある動画などの削除が考えられます。また、住所などの個人情報が記載された物を相手が所持してれば、その放棄を求めることが考えられます。

刑事裁判の判決

裁判所の法廷で、判決がなされます。

裁判官の判決の言渡しをしっかり聞く
裁判官の判決の言渡しで、量刑の理由をしっかり聞くと良いです。
損害賠償命令の裁判に関係することにも言及されます。

刑事裁判の判決直後に第1回の期日

被告人の判決後に、少し休憩を挟んで、第1回目の期日が開かれます。
刑事事件の裁判官がそのまま担当します。
非公開の審尋期日となります。

相手方の対応:答弁書
相手方は、答弁書を提出できます。
答弁書は、弁護人に作成してもらって提出することもできます。

申立人側の対応
準備ができていないのならば、「準備中です」と述べるだけでも大丈夫です。

被告人に伝えたいことを伝えることができる
例えば、
・捜査機関に押収されたままとなっている、被告人のスマートフォン内にある被害者の写真や動画を削除して欲しい
・捜査機関に押収されたままとなっている、被害者の個人情報が記載されている紙片の所有権を放棄して欲しい
場合に、損害賠償命令の期日において、被告人に伝えることができます。

被告人が被害者の要求に応じれば、損害賠償の減額に応じると伝えることができます。

そして、担当の警察官に連絡して、警察官を通じて写真や画像の削除なりをすることができます。

第1回の期日後

被告人が提出してきた答弁書に対して、反論の書面を作成します。
かつ、新たに主張立証したいことを書面にまとめます。
そして、作成した書面や証拠を裁判所に提出します。

裁判官から電話がかかってくることがある
提出した書面の内容などについて、裁判官から電話がかかってくることがあります。
損害賠償命令の申立ての期日は、最大で4回までです。
そこで、4回と短いので、裁判官は、期日の間に、連絡をしてくることがあります。そして、書面の内容で説明が足りていない部分について質問や確認をされたりします。証拠が足りない部分は、証拠を追加で提出するよう求めたりします。

民事の部署へ移されることもある

損害賠償命令の申立てをすると、刑事裁判の裁判の部署がまず審理します。
4回以内と限られています。
裁判官は、その途中で、職権で、民事の部署に回すこともあります。
そうすると、2か月か3か月くらい待ち、裁判所の民事の部署で審理が続きます。

民事の部での裁判について

個人情報を知られたくない場合

訴訟委任状について

代理人がいる場合、訴訟委任状を提出します。

加害者に住所を知られたくない場合
委任状の住所を代理人の事務所にすることができます。

秘匿の申立てについて

加害者に氏名が知られていない場合は、秘匿の申立てを行います。

閲覧制限の申立てについて

一方、顔見知りなどで、加害者にすでに氏名が知られている場合は、秘匿の申立てではなく、閲覧制限が考えられます。
訴訟記録は裁判所で閲覧できます。
そこで、閲覧制限の申立てを裁判所に行うのです。

閲覧制限の部分ですが、住所、氏名、年齢、勤務先等になります。

刑事裁判の起訴状などが裁判記録に綴られていることがあります。そこで、起訴状などを見られたくない場合は閲覧制限の申立てを行うことになります。

閲覧制限の申立ては、印紙代が500円ほどかかります。

費用について

損害賠償命令の申立ては、申立ての際に印紙代が2000円ほどかかります。

その後、民事の部署へうつされた場合、別途、印紙代がかかります。
民事裁判の訴訟提起と同じ扱いになります。
仮に1000万円請求すると、印紙代は5万円となります。

なお、手数料については、裁判所の次のページに記載あります。
手数料

そこで、費用をおさえるために、損害の全部ではなく一部だけの一部請求に切り替えることも考えられます。

民事の部での裁判の流れ

裁判前

裁判所の書記官から、閲覧制限の申立てや秘匿の申立てなどについてどう対応したら良いかなどのアドバイスをうけることがあります。

第1回公判期日

裁判所の公開の法廷で審理が開かれます。

損害賠償命令の申立ては、裁判所としても比較的珍しい事件です。
そこで、裁判官が、裁判官も書記官も、勉強などしながら進めていきますから宜しくします、と述べることもあります。

原告が事前に提出した損害賠償命令申立書と、被告が答弁書を提出している場合は、陳述されることになります。

裁判所から冊子が渡されることがある
裁判官から、参考にして下さいということで、書面が渡されることがあります。
渡される書類は、「平成24年実務研究 損害賠償命令手続における書記官事務の研究」の194頁目から223頁目までのコピーです。
書面内の
・202頁目「事務連絡-通常移行後の民事訴訟手続」
・210頁目「特例による書証の申出」
を参考にして下さいと言われることがあります。

主張立証について
刑事裁判の際の損害賠償命令申立ての手続内の書面(準備書面や証拠等)は、民事の裁判所にうつされています。
ただし、民事の裁判は別の手続です。そこで、改めて、主張や証拠の書面を裁判所に提出する必要があります。

主張立証について

根拠となる資料が必要

性犯罪にあい、通院や引っ越しなどした場合は、その根拠となる書類の提出が必要です。
引っ越しの見積書や領収書、通院の際の領収書です。

引っ越しをしていなかったり、通院をしていず、根拠となる資料がないと、裁判所はこの分の損害を認定できません。

犯行態様に基づく慰謝料

犯行態様を明らかにすることにより、慰謝料がどのくらいになるか決まります。
どのような事実関係が重要か、どのように評価するか、この点について原告と被告が双方議論することになります。

そして、犯行態様については、刑事裁判の事件記録が証拠となります。
平成24年実務研究 損害賠償命令手続における書記官事務の研究」の書籍に記載ありますが、刑事事件の裁判記録について特例による書証の申出ができます。

まこと法律事務所

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この記事を書いた人

弁護士水谷真実

弁護士水谷真実

東京の新宿駅の近くの新大久保で、弁護士事務所開業。弁護士10年目の若手。離婚事件、一般民事事件、新大久保近辺に住む方々の事件、外国人の事件。ブログは主に仕事、その他気の向くままに。
ご相談いただいたことは、一生懸命対応します。アフターフォローにも力を入れています。来所が難しい方のために出張相談を承ります。悩んだら、思い切ってお問い合わせ・ご相談ください。

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