業務提供誘引販売取引にあたるとして解除の主張をされた場合に、まずチェックすることは?
芸能事務所を営んでおります。俳優としてデビューさせようと、ずっと目をかけてきて手塩にかけて育ててきた子がいました。しかし、突然、事務所を辞めると言ってきて、弁護士から業務提供誘引販売取引に当たるので、特定商取引法58条に基づいて契約を解除するとの内容証明郵便が届きました。そして、解除に基づいて稽古代等の返還を請求してきます。どうしたらいいでしょうか?
それはお困りですね。
もし、業務提供誘引販売取引に当たったら、事務所に所属している他の俳優の卵達との契約にも影響しますし、会社の信用にも関わりますからね。
まず、業務提供誘引販売取引とは何かについてです。
本件の場合でいうと、勧誘するに際に、将来俳優としてデビューして報酬が得られるなどと期待を抱かせ、デビューのためには芸能事務所に所属をして稽古代などを支払わなければならないなどとして所属契約を締結することです。
しかし、業務提供誘引販売取引の場合、クーリング・オフの制度(特定商取引法58条)があり、契約の解除を主張できるのは、書面(契約書)を受領した日から20日以内ですよね。とっくに過ぎているのではないですか?
はい。しかし、彼の弁護士は、契約書の受領がないのでクーリング・オフが認められると主張しております。契約書はきちんと渡しております。
業務提供誘引販売取引におけるクーリング・オフとは?
業務提供誘引販売取引の場合、クーリング・オフの期間は、書面(契約書)を渡した日から20日間です。
もっとも、業務提供誘引販売取引の場合、法律で要求されている要件をみたした書面を交付しなくてはなりません(商取引法58条、55条2項)。
そして、記載するべき内容や条件は厳格で、例えば、書面の内容を十分に読むことやクーリング・オフについて、赤枠で赤字で記載することなどが求められます。
そのため、要件を満たしていない書面を渡しても、クーリング・オフの期間はすすみません。
クーリング・オフで書面の受領の有無が争われている場合、どうしたらいい?
書面(契約書)を渡したかどうかについては、事業者が立証責任を負います。
そして、本来は、契約書を交付した際に、契約書を受領したということで相手方から受領書の交付を受けることが丁寧であり望ましいです。
もっとも、受領書がなくても、契約書の中に「契約成立の証として本書面を2通作成し、それぞれが各1通ずつ保有するものとする。」という文言があれば、契約書を受領していることの証拠になります。
また、契約書に契約者双方が押印した割り印も、契約書を受領したという証拠になります。契約者双方が押印した割り印があるということは、契約書が2通ある証拠となります。そして、契約書の2通のうちの1通を交付したという証拠にもなりえます。
そして、契約当時のメールなどのやりとりも、証拠となりえます。
法律で定められている要件を満たしていない書面を交付したと主張された場合、契約の解除を認めるしかないのか?
今回の場合は、契約後、相当長期間たってからクーリング・オフに基づく契約の解除の主張がされています。
そのため、書面の記載の不備を利用して利益を得る意図があったなどの特別の事情があれば、クーリング・オフに基づく契約の解除は権利濫用となりえます。