未経過保険料や契約者配当金等と相続放棄の関係

疑問に思っている男性
相談者

先日、父が亡くなりました。
父には、借金がありました。そこで私は相続放棄をしました。
相続放棄をしましたが、父が契約をしていた保険の生命保険金、未経過保険料、契約者配当金等は、私は受け取れるでしょうか?相続放棄が認められなくなるでしょうか?

父の生前の生命保険契約ですが、
具体的には、
契約者:父(死去)
被保険者;父(死去)
受取人:私
です。

弁護士水谷が考えている状況
弁護士水谷

生命保険金は、受取人がご相談者さんとのことですので、受け取れます。
未経過保険料、契約者配当金は、保険会社の約款にどう記載しているかにもよりますが、受け取れるはずです。

相続放棄とは?

民法は、相続について次のように規定しております。
「一切の権利義務」と規定されているので、亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も全てが相続されます。

(相続の一般的効力)
民法第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

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そして、相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったとみなされます。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

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生命保険金と相続放棄の関係

では、生命保険金は、相続財産に含まれるでしょうか。
相続放棄がなされても、息子は生命保険金を受け取ることができるでしょうか。

この点については、生命保険金の受取人が誰かによって異なってきます。

受取人が契約者(亡くなった人)の場合

生命保険金の受取人が、契約者である亡くなった人(被相続人)の場合、生命保険金は相続財産に含まれます。
保険金請求権は契約者自身に帰属していると考えられるからです。

受取人が第三者の場合

一方、生命保険金の受取人を契約者以外の第三者にしている場合は、生命保険金は相続財産には含まれません。

まず、生命保険の受取人が第三者の場合は、法的には、「第三者のためにする契約」(民法537条)となります。

(第三者のためにする契約)
民法第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

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上の場面ですと、亡くなった父親が、息子のために契約をしたのです。
そして、息子は保険会社に対して直接に保険金を請求する権利を有することになります。

そして、受取人を第三者にした生命保険契約の場合、保険法には、保険金の受取人は当然に生命保険契約の利益を享受すると規定されております。

(第三者のためにする生命保険契約)
保険法第四十二条 保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは、当該保険金受取人は、当然に当該生命保険契約の利益を享受する。

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そのため、息子は、相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができるのです。

未経過保険料と相続放棄の関係

未経過保険料について、生命保険契約の中で定めがない場合ことが多いかと思います。
この場合は、保険会社の約款に定められているはずです。

例えば、かんぽ生命の終身保険簡易生命保険約款では、次のように規定をしております。

(未経過期間に対する保険料の還付)
第14条 保険料を払い込んだ後、次に掲げる事由が生じたことにより、その直後の月ごとの効力発生応当日以降の期間に係る保険料の全部又は一部について払込みを要しないこととなったときは、その払込みを要しないこととなった期間に対する保険料を保険契約者に還付します。
(1)基本契約の消滅
(2)保険料の払込免除又は払込不要
(3)保険料払込期間又は保険期間の短縮変更
(4)保険金額の減額変更
(5)保険料払済契約への変更
2 前項の場合の還付する保険料の額は、保険料を払い込んだ時において、機構の定めるところにより、当該還付する保険料の額として算出した額とします。
3 第1項の場合において、還付する保険料は、保険金と同時に支払う場合にあっては、同項の規定にかかわらず、保険金受取人に還付します。ただし、保険契約者がその保険料を受け取る旨の意思表示をしたときは、これを保険契約者に還付します。

かんぽ生命の終身保険簡易生命保険約款

約款に基づくと、未経過保険料については、生命保険金と同時に支払う場合は、保険金受取人に還付されると規定されております。
そのため、生命保険金の受取人が息子の場合、未払い保険料は相続財産にはならないことになります。
よって、相続放棄をしていても、未経過保険料を受け取っても大丈夫です。

相続税において

相続税法及びこれに基づく通達で、生命保険金と共に受け取る剰余金、割戻金、払戻しを受ける前納保険料は、生命保険金に含めるとされています。みなし相続財産とされて、相続税の課税対象となります。

具体的には、次のように定められています。

(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)
相続税法第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

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(保険金とともに支払を受ける剰余金等)
3-8 法第3条第1項第1号の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされる保険金には、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金及び払戻しを受ける前納保険料の額で、当該保険契約に基づき保険金とともに当該保険契約に係る保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)が取得するものを含むものとする。(昭57直資2-177追加)

通達3-8

契約者配当金と相続放棄の関係

契約者配当金についても、未経過保険料と同様のことがいえます。

生命保険契約の中で定めがない場合ことが多いかと思います。
この場合は、保険会社の約款に定められているはずです。

例えば、かんぽ生命の終身保険簡易生命保険約款では、次のように規定をしております。

(契約者配当金の支払)
第52条 前条の規定により分配した契約者配当金は、次に掲げる事由が生じたときに、保険契約者に支払います。ただし、第1号の場合において死亡保険金を支払うときにあっては、死亡保険金受取人に支払います。
(1) 被保険者の死亡
(2) 基本契約の解除の通知
(3) 基本契約の失効
(4) 保険金額の減額変更の請求

かんぽ生命の終身保険簡易生命保険約款

約款に基づくと、契約者配当金については、被保険者が死亡している場合は、保険金受取人に支払われると規定されております。
そのため、生命保険金の受取人が息子の場合、契約者配当金は相続財産にはならないことになります。
よって、相続放棄をしていても、契約者配当金を受け取っても大丈夫です。

解約返戻金について

解約返戻金は、満期前に契約者が自ら解約するか、または保険会社から解約された場合に受け取る金員です。

保険会社の約款には、次の様に規定されていることもあります。

約款
(保険契約の解約) 契約者は、いつでも将来に向かって、保険契約を解約することができます。この場合、解約返戻金を契約者に支払います。

そのため、契約者が解約をすれば、解約返戻金は契約者自身に戻ってきます。

契約者がご存命の場合の話なので、相続放棄の話ではないです。
しかし、契約者が解約して解約返戻金をうけとる手続をしている最中に死去した場合は、問題となりえます。

まこと法律事務所

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この記事を書いた人

弁護士水谷真実

弁護士水谷真実

東京の新宿駅の近くの新大久保で、弁護士事務所開業。弁護士10年目を超えました。離婚事件、一般民事事件、新大久保近辺に住む方々の事件、外国人の事件。ブログは主に離婚や男女問題について書きます。
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