はじめに
扶養的財産分与とは、
夫婦が離婚後に、 生活が困窮する元夫(若しくは元妻)に対して、生活を扶助するために支払われるものです。
財産分与はよくきく言葉ですが、扶養的財産分与はなじみが薄い言葉かもしれません。
財産分与ですが、法律の専門書によると
- 清算的財産分与
- 扶養的財産分与
- 慰謝料的財産分与
そして、民法では、財産分与について次のように規定しています。
(財産分与)
第768条
1.協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2.前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3.前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
そのため、清算的財産分与の根拠は、「その他一切の事情を考慮して・・・方法を定める。」という民法の規定に基づいてるといえそうです。
扶養的財産分与は限定的な場合でしか認められない
夫婦は、婚姻中は扶助義務があります 。
(同居、協力及び扶助の義務)
第752条
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
しかし、離婚後は、夫婦には扶助義務する義務がないので、本来ならば扶養的財産分与は認められなさそうです。
一般的には、裁判では夫婦の共有財産を清算する清算的財産分与の話となります。
しかし、
- 妻が婚姻中は専業主婦であった場合
- 離婚後に病気なので元夫(若しくは元妻)が働けないような場合
- 財産分与する側が離婚後も十分な資力がある場合
などの場合には、扶養的財産分与認められる余地がありそうです。
そのため、元夫(若しくは元妻)は、扶養的財産分与の主張ができそうならば、主張することを考える必要がありそうです。
一方、扶養的財産分与の請求を受けた側は、応じるかどうかよく考える必要があるでしょう。
扶養的財産分与はいつまで認められるか
扶養的財産分与は限定的に認められるものです。
そこで、妻が離婚後は専業主婦をやめて働く場合には、復職までの期間が考えられます。
病気なのですぐには働けない場合には、病気が回復するまでの期間が考えられます。
扶養的財産分与がなされる期間はケースバーケースですが、数ヶ月から3年ぐらいが一般的のようです。
扶養的財産分与を認めた判例
扶養的財産分与を認めた判例があります。
直近で認められた判例ですと、名古屋高判平成18年5月31日判例タイムズ主要民事判例解説 別冊22号 136頁があげられるかと思います。事案 (名古屋高判平成18年5月31日)
元妻が元夫に対し、離婚後の財産分与として、清算的財産分与1000万円,慰謝料的財産分与1000万円(なお、既払額として100万円の支払あるので差し引く)、自宅マンションの使用借権(使用期間は、長男が成人する平成26年まで約15年間)を求めた。
裁判所は、
夫婦が離婚に至った場合,離婚後においては各自の経済力に応じて生活するのが原則であり,離婚した配偶者は,他方に対し,離婚後も婚姻中と同程度の生活を保証する義務を負うものではない。しかし,婚姻における生活共同関係が解消されるにあたって,将来の生活に不安があり,困窮するおそれのある配偶者に対し,その社会経済的な自立等に配慮して,資力を有する他方配偶者は,生計の維持のための一定の援助ないし扶養をすべきであり,その具体的な内容及び程度は,当事者の資力,健康状態,就職の可能性等の事情を考慮して定めることになる。
という判断基準を設定しました。
その上で、この事案の諸事情を考慮して、扶養的財産分与として自宅マンションの使用借権を認めました。
この裁判においては、様々な事情を考慮して、扶養的財産分与を認めています。
扶養的財産分与と熟年離婚(年金分割との関係)
離婚時の年金分割の制度が平成19年4月1日より施行されています。
参考:離婚時年金分割に関する事件の概況(最高裁判所)
年金分割の制度ができたことにより、年金分割がうけられるのであれば扶養的財産分与は認められる場合は限定的となりそうです。
すなわち、熟年離婚の場合には、年金がもらえる時期がちかいので、年金でカバーすれば良いという考えになります。
しかし、熟年離婚後は、働ける機会が限定される場合には、扶養的財産分与を認める方向に働きます。