弁護士の水谷真実(→プロフィールはこちら)です。
財産分与における、婚姻関係財産一覧表の作成の仕方についてです。
婚姻関係財産一覧表を作成する目的は、財産分与の金額を明らかにするためです。
裁判所のページ
まず、裁判所のページに、婚姻関係財産一覧表について記載があります。
作成にあたっての注意事項や、雛形の書面も掲載されております。
まず基準時を確定させる
基準日(別居日)
まず、基準時、すなわち別居した日を確定させることが必要です。
申立人は、申立書の書面に、別居した日を記載するので、この日です。
別居した日は、正確には覚えていないかもしれません。
申立人は、申立書にだいたいの別居日を記載してもかまわないです。
正確な日を覚えていない場合は、自身に有利な日を定めて確定することもあります。
別居日は、どの日をもって別居というのか判然としないかもしれません。
ただ、婚姻関係財産一覧表の作成をするために、なるべく早く別居日を定めるべきです。
夫と妻が、別居日、すなわち基準時をいつの日とするかなるべく早く決めましょう。
同居日
そして、同居日も明らかにしましょう。
同居をした日がかなり前でよく覚えていない場合は、入籍した日でも良いです。
戸籍などをみれば、入籍日が分かります。
各項目について
婚姻関係財産一覧表の項目としては
1.不動産
2.預貯金
3.生命保険
4.退職金
5.株式
6.負債
があります。
不動産関連について
住宅ローン
住宅ローンは、負債の欄に記載をします。
不動産を購入した際の頭金について
負債の欄には記載をしません。
不動産の欄における、「備考欄」に記載します。
具体的には、
・土地:2000万円
・建築費:1500万円
・付随する工事:500万
・頭金の300万円は、夫が親からの援助で支払う。残りのローンは夫が主債務者、妻が連帯保証人で、共有名義で借りる
という風にです。
同居期間中に売却した不動産について
同居していた際に不動産を売却した場合、売却した際の売買代金が問題となることがあります。
この場合は、「不動産売却代金」という項目を新しく設けて、売却代金を記載します。
共有名義の場合
不動産が共有名義の場合があります。
例えば、不動産が、夫と、どこかの会社の共有名義だとします(夫が3/10、会社が7/10)。
この場合、夫名義の3/10の部分が財産分与の対象となります。
そこで、婚姻関係財産一覧表のこの不動産の項目の備考欄に、
「夫3/10、〇〇会社7/10(3/10が財産分与の対象)」
などと記載します。
不動産が競売された場合
不動産が別居中もしくは別居後に競売されても、記載をします。
婚姻関係財産一覧表の備考欄に、
「〇年〇月〇日強制競売、競売代金は〇〇万円」と記載します。
財産分与をする際の参考になります。
別居後に売却した不動産も記載する
別居後に売却した不動産も記載します。
婚姻関係財産一覧表の備考欄に、
「〇年〇月〇日に売却済み、売却代金は〇〇万円。売却代金は夫の口座へ送金」などと記載します。
根拠となる資料を取得する
不動産業者に不動産の査定をしてもらい、査定書を取得します。
簡易査定(机上査定) について
不動産会社へ依頼して、簡易査定(机上査定)の書面を作成してもらいます。
不動産会社によっては、通常査定よりもだいたい20%くらい高く査定する会社もあります。実勢価格(実際の取引が成立する価格)よりも20%くらい高い査定となります。
住宅ローンがある場合は、住宅ローンの残高の明らかにする書面を提出します。
銀行から借りている場合は、銀行のインターネット上のページにアクセスして、ローンお借入内容照会のページをプリントアウトします。
預貯金について
別居後に開設した預金口座も記載する
資産隠しをしたのではないかと相手に疑念を抱かれ無いように、別居後に開設した預金口座も記載する方が良いでしょう。
この場合は、預金口座内に預金が残っていても、婚姻関係財産一覧表の金額欄は0円の主張となります。
婚姻関係財産一覧表の備考欄には、
「別居後に口座開設」などと記載します。
根拠となる資料を取得する
同居を始めた日と別居を始めた日の預金残高を明らかにします。
預金通帳か、預金通帳が無ければ銀行から残高証明書を取得する必要があります。
同居を始めた日、別居を始めた日をできるだけ特定して、その日の残高証明書を取得する必要があります。
別居した日の残高証明書を取得できない場合について
別居した日が例えば15年前と昔で、残高証明書を取得できない場合があります。
銀行によって過去の取引データの保存期間は異なります。銀行の保存期間が過ぎると、データが消去されて、残高証明書を発行できなくなるのです。
裁判になっている場合、裁判所に送付嘱託(民事訴訟法226条)の申立てをして、銀行から書面を取得できる場合があります。しかし、銀行の保存期間が過ぎてデータが消去されているので、送付嘱託を利用しても取得できなくなります。
そこで、別居した日の残高証明書を取得できない場合は、改めて、いつの時点の残高証明書を取得するか、裁判の場で協議することになります。
別居時点の残高証明書を取得できない場合
例えば、別居をした時が15年ぐらい前だとします。
この場合、銀行に別居時点の残高証明書の取得も依頼しても、取得できないことがあります。
何故なら、銀行は一定期間を過ぎると過去のデータを消去してしまうからです。
また、裁判の場合、裁判所に調査嘱託などを申し立てることにより、裁判所を通して銀行から書面を取得することができます。
しかし、すでに銀行が過去のデータを消去している以上、裁判所の調査嘱託などを利用しても、取得できません。
そこで、残高証明書を取得する基準となる日をいつとするか、問題となります。
この点については、
①現時点
②裁判所の調査嘱託によりさかのぼれる日までさかのぼった時点
などが考えられます。
裁判所で、いつを基準日とするか、話し合わせることになります。
婚姻関係財産一覧表に記載する金額
例えば、A銀行の預金の残高ですが、
同居日:100万円
別居日:50万円
だとします。
この場合、婚姻関係財産一覧表には、
A銀行の預金残高 -50万円
とはなりません。
「0円」となります。
生命保険について
別居後に加入した場合も記載する
資産隠しをしたのではないかと相手に疑念を抱かれ無いように、別居後に加入した生命保険についても記載する方が良いでしょう。
この場合は、解約返戻金があっても、婚姻関係財産一覧表の金額欄は0円の主張となります。
婚姻関係財産一覧表の備考欄には、
「別居後の〇年〇月〇日に加入。解約返戻金は〇円」などと記載します。
株式について
根拠となる資料を取得する
婚姻期間が短い場合は、証券会社から婚姻時と別居時の取引残高報告書を取得し、差額を算出することが考えられます。
婚姻期間が長い場合は、別居時(基準時)における株価をインターネット上の対象株式の株価チャートを用いて明らかにすることもできます。
車
根拠となる資料を取得する
自動車検査証やレッドブックやインターネット上の中古車査定の結果を用いて、金額を明らかにします。
家財道具
根拠となる資料を取得する
家財道具を財産分与の対象とすることもできます。
財産分与との関係が紛らわしい事柄
財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産をわけるものです。共同で築いた財産を清算します。
そして、基準となる日(別居日)の財産を分与します。
別居後の子どもの保育料
例えば、別居後に、母親が同居する子どもの保育料を負担したとします。
財産分与は夫婦の共同財産を清算する側面があります。そして、別居後の子どもの保育料は、別居後に発生していますので、財産分与の外側の問題です。
そのため、本来、婚姻関係財産一覧表には記載はしません。
ただし、最終的には、財産分与と一緒にして、いくら支払うとはなります。
奨学金の返済
例えば、婚姻期間中、夫が大学の奨学金の返済を行っていたとします。
財産分与は夫婦が共同で築いた共同財産を清算するものです。
そのため、奨学金の返済分も、財産分与の外側の問題です。