相手に、かなり昔の被害について慰謝料請求等をしたい場合についてです。
慰謝料請求ですが、不法行為に基づく慰謝料請求となります。
そして、この慰謝料請求ですが、被害のときから一定の年数が経過すると、消滅時効の問題が生じます。
以下、説明をします。
消滅時効についての規定
民法には、不法行為による損害賠償請求の消滅時効について、次のように規定しています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
e-GOV法令検索民法
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
e-GOV法令検索民法
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
未成年者が被害にあった場合の消滅時効について
未成年者が被害にあい、損害賠償請求を行う場合についてです。
民法724条1号には、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」と規定されています。
そして、次の裁判例によると、被害者が未成年者の場合は、未成年者ではなく、法定代理人が損害及び加害者を知った時を消滅時効の起算点としています。
裁判例について
事案
この裁判例についてです。
ある未成年者が、平成13年に、その意思に反して施設の主宰者によって施設に拉致され、暴行をうけて、軟禁されるなどしたことがありました。
3年以上たった後に、未成年者側が、施設の主宰者等に対して、不法行為に基づく損害賠償請求の裁判をしました。
その際、未成年者が「損害及び加害者を知った時」が消滅時効の起算点なのかが争点となりました。
判旨
裁判では、次のように判旨されました。
消滅時効の起算点を「損害及び加害者を知った時」と規定し、被害者らの認識にかからしめたのは、権利行使の可能性を保障して被害者を保護する趣旨であるから、被害者が未成年の場合には、法定代理人が損害及び加害者を知った時を消滅時効の起算点と解すべきである。
名古屋高等裁判所 平成18年(ネ)第1116号 損害賠償請求控訴事件 平成19年9月26日
すなわち、未成年者が「損害及び加害者を知った時」に消滅時効が進むと、この事案では、不法行為に基づく損害賠償請求は3年が過ぎているので消滅時効になってしまいます。
しかし、裁判所は、未成年者ではなく法定代理人が「損害及び加害者を知った時」が消滅時効の起算点であるとしました。
被害にあった未成年者が成人した場合
上記の裁判例から、未成年者に被った不法行為については、法定代理人(親権者)が「損害及び加害者を知った時」から消滅時効が進行します。
一方、未成年者が成人した場合についてです。
未成年者は、18歳になったら成人します(民法4条)。
18歳で成人すると、親権は消滅することになります。
そうすると、未成年者が18歳になり成人したら、法定代理人(親権者)はいなくなるので、消滅時効は進んでいくと考えることができます。
消滅時効の起算点を「損害及び加害者を知った時」と規定し、被害者らの認識にかからしめたのは、権利行使の可能性を保障して被害者を保護する趣旨にあります。
そこで、18歳になった成人になったら、権利行使が可能になると考え、「損害及び加害者を知った時」といえるので、消滅時効が進行していくと考えることができます。
そのため、不法行為に基づく損害賠償請求は、21歳までに行わないと消滅時効にかかることになります。